“髪がなくなる症状について”

脱毛症について
(東京医科大学病院、ワタナベ皮膚科 入澤亮吉先生監修)
©︎えんどうえみか
円形脱毛症(alopecia areata)円形脱毛症は頭髪などに円形の脱毛斑をきたす疾患で、原因はいまだにはっきりとしていません。一般的には10円玉程度の脱毛斑というイメージがありますが、時に多発し、場合によっては頭髪だけでなく、まつ毛や眉毛、その他全身の体毛まで脱落することもあります。各年齢層に起こり、男女差はおそらくありません。
これらの症状は通常ウイルスや細菌とたたかう仕事をしている白血球の一種であるリンパ球という免疫細胞が毛根を攻撃してしまうことで起こると言われています。
こういう疾患を我々は自己免疫疾患と呼びますが、円形脱毛症では甲状腺疾患、膠原病、アトピー性皮膚炎などを合併することが知られていますので、これらの疾患の合併がないことを確認しておくことは重要でしょう。脱毛の症状によって、単発型、多発型、蛇行型(生え際に帯状に脱毛をきたす)、急速進行型(短期間で頭髪のほとんどが脱落)、全頭型(眉毛、まつ毛は保たれる)、汎発型(頭髪、眉毛、まつ毛、体毛まで脱落)に分類されます。
脱毛症の治療に関してのメッセージ当院は円形脱毛症を専門の一つとして診療を行っているクリニックです。症状に合わせて以下のような治療を行っていますが、基本的にガイドラインに準拠した治療法を行っています。
単発型:ステロイド外用、ステロイド局所注射、エキシマライト
多発型・蛇行型:ステロイド外用、ステロイド局所注射、エキシマライト、局所免疫療法(DPCP、SADBE:頭皮に淡いかぶれをつくる治療)
急速進行型:ステロイド内服(副作用に注意が必要です)
全頭型・汎発型:ステロイド外用、局所免疫療法
汎発型で治療抵抗性の場合は眉毛のみにケナコルト局所注射
Topics! 重症の多発型、全頭型、汎発型の円形脱毛症の患者様のうち、中等症以上のアトピー性皮膚炎の合併がある場合、デュピクセント®(皮下注射剤)あるいはオルミエント®(内服薬)というアトピー性皮膚炎の新薬が著効する場合があります。ただし、高額なのが難点です。
円形脱毛症の治療のゴールはウイッグをはずせる状態になることでしょう。しかしながら、いずれの治療法も効果がない場合は、漫然と治療を続けるのではなく、無治療経過観察も重要な選択肢だと思っています。そんな患者さんのために眉・アイラインの医療アートメイクも実施しています。
髪の毛を失った患者さんの心の痛みに寄り添える診療を心がけたいものです。

(ガイドライン)日本皮膚科学会 「円形脱毛症診療ガイドライン2017年度版」
アートメイクの症例はこちら

皮膚科専門医
入澤亮吉

抜毛症について
(日比谷パークサイドクリニック立川秀樹先生監修)
©︎えんどうえみか
抜毛症(Trichotillomania)自身で頭髪、または体毛などを繰り返し抜き、その結果、様々な程度の脱毛状態に至る慢性疾患です。
2つの型があり、衝動や体の感覚、あるいは思考を制御するために意図的に行われる自覚のある抜毛と、座って何かをしている時などに行われる無意識の型があります。
最初は、前者の意図的に行われる抜毛から発症することが多いですが、時間の経過とともに、無意識に行われる後者へ移行するケースが多いです。
前思春期から思春期にかけて発症することが多く、抜毛症には様々な要因が関わっていると考えられており、4分の1以上はストレス状況と関連しているといわれています。
非常に慢性化している例では、意思に反して同じことを繰り返してしまう脳の病「強迫性障害」の併存の可能性もあると考えられているため、心身医学的観点などの多面的なアプローチをすることもあり治療法は様々です。
抜毛症の治療に関してのメッセージ抜毛症は、決して稀な疾患ではなく、多くの人が悩まれています。にもかかわらず、治療が出来る事を知らない、知っていても治療が出来る医療機関が見つからないケースが多々あります。これは、我々医療側の問題も多く、「ただの癖でしょ」、「詳しく知らない」、「疾患そのものは知っているが、治療法がわからない」という医師が多いことも事実です。
抜毛症は決して治療できない病ではありません。患者さんの中には「治療したいが、全く抜毛できなくなるのも怖い」と抜毛特有のお悩みを抱えている方もいます。全く抜かない事を目標にするのではなく、まずは、生活に支障が出ない程度に頻度を減らす事を目標にしては如何でしょうか?
実際の治療は、薬物療法と行動療法を組み合わせて行います。決して辛い治療ではないです。
治療に時間がかかることも多々ありますが、一人で悩まず、一緒に治療という道を歩んでいきましょう。

パークサイド日比谷クリニック 院長
立川 秀樹

乏毛症について
(山口大学大学院医学系研究科皮膚科学講座教授 下村裕先生監修)
©︎えんどうえみか
先天性乏毛(ぼうもう)症は先天性貧毛症とも言われています。
生まれつき毛(髪)が少ないことが特徴の毛髪疾患です。
日本人では縮毛を伴う場合も多く、また、毛量などには個人差があります。
日本国内では約1万人に1人の頻度で患者がいると推定されています。
先天性毛髪疾患は細かく分類すると200種類以上もあり、それぞれの原因も異なります。疾患の中には、毛髪症状だけでなく、歯が少なかったり汗が出にくいなどの症状を伴うものもあります。また、原因が未解明の疾患も多数存在します。研究がかなり進んで治療法が開発されつつある疾患も存在しますが、そのような段階に到達していない疾患のほうが多いのが現状です。
毛髪症状の程度を踏まえ、そのままの髪を生かしたり、エクステやウィッグ、帽子を活用して生活するなど様々な選択肢があります。また、毛髪以外にも症状がある場合には、各症状に応じた対症療法(義歯や保湿剤の使用など)や生活指導を受けていただく必要があります。
乏毛症の方、ASPJ へのメッセージはじめまして。私は、山口大学皮膚科の下村 裕と申します。医学部の学生時代から毛髪に興味を持ち、毛髪疾患の患者様のお役に立てるような医師・研究者になりたいと思い皮膚科医になりました。約18年間にわたり新潟大学を拠点にして働いていましたが、2017年1月に山口大学に異動しました。現在、山口大学医学部附属病院で毛髪疾患を含むあらゆる皮膚疾患の患者様の診察を行うとともに、それらの疾患の原因の解明や治療法の開発を目指して研究活動を行っています。
毛髪疾患には数多くの種類があります。有病率が高いのは円形脱毛症や男性型脱毛症ですが、抗癌剤による脱毛、自分自身で毛髪を抜いてしまう抜毛症(抜毛癖、トリコチロマニア)や、生まれつき毛髪が少ない先天性乏毛症などの患者様も少なからず存在します。また、例えば円形脱毛症という1つの疾患でも症状には個人差があり、500円玉大の脱毛が頭皮に1個だけの方から全身の毛髪が全て抜けてしまう方までさまざまです。さらに、患者様がご自身の毛髪症状に対して抱えている悩みの程度には大きな幅があると感じています。たとえ医学的には軽症であっても、気持ちが落ち込み生活の質が著しく低下している患者様にもしばしばお会いします。
ASPJは、毛髪疾患の種類や医学的な重症度などとは関係なく、毛髪に関して何らかの悩みをお持ちの皆様が参加されているコミュニティーだと理解しています。本サイトを通じ、毛髪疾患についての最新で正しい情報を共有していただくことができます。また、お互いの経験を語り合うことで、日常生活を明るい気持ちでお過ごしいただくための貴重なヒントが得られるかもしれません。当たり前のことですが、人間は一人では生きていけません。「毛髪」という共通のキーワードを通じ、人と人とのつながりが構築されることは素晴らしいことだと思います。
私自身は田舎の皮膚科医に過ぎませんが、ASPJに参加いただいている皆様にとって少しでもお役に立てればと考えています。また、皆様との交流を通じて自分自身も成長したいと願っておりますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

下村 裕 教授
山口大学大学院医学系研究科皮膚科学講座
(山口大学医学部附属病院皮膚科)

イラスト協力:えんどうえみか

ASPJでは毎月当事者・ご家族の為のオンライン交流会を開催しています。

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